蒸気機関は「汎用性」を手に入れて、世界を変えた。|ビジネス教養:産業革命編

産業革命

こんにちは。アリントスです。

普段は国内電機メーカーの法人営業をしています。
28歳になり中堅に差し掛かり、仕事の責任が増えるにつれ、気合とノリでは太刀打ちができなくなりました。
そんな頃に脳内宰相ビスマルクさんが言うのです。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶのだ。21世紀では使い古された言葉だろうが、お前には必要な言葉であろうが!」と。

ということで、「第一次産業革命期におけるイギリスの企業家」を学び、現代のビジネスマンの我々のためになる知見を得ていきたいと思います。
読み進めている参考文献は引き続きこちらです。

前回記事ではなぜイギリスで技術の発明の連続(=産業革命)が起きたのかを整理しました。
以下の1つの重要な方向性とマクロとミクロのレベルの異なる発明の段階を踏んで、産業革命は起きたということでした

  1. 当時の技術は「高賃金な労働力を安価な石炭に置き換えるという方向性」のもとに発明された
  2. 生産要素価格の比率を劇的に変えるマクロレベルの発明から現場に落とし込むミクロレベルの発明の段階を踏んだ。

今回は、産業革命といえば”蒸気機関”ですよね。
蒸気機関の発明の大まかな歴史と二つの流派の存在を整理したいと思います。

技術開発に先立つ科学の進歩

ニューコメンの蒸気機関の中核には17世紀の科学が宿っていた。

世界史のなかの産業革命―資源・人的資本・グローバル経済 p 181

ニューコメン(1664ー1729)とは、1712年に初めて蒸気機関の発明に成功したと言われるイギリスの発明家です。
ここで注目すべきは、先立つ1600年代には蒸気機関を支える「空気圧」に関する科学的な法則や研究が進み、トレンドになっていたことです。
1644年 トリチェリの法則
1662年 ボイルの法則
1698年 ホイヘンスの原理
と空気圧に関する重要な科学的な知見が発見されていました。
この科学の発見をニューコメンは技術として応用させることができました。

コーンウォール → ワット → コーンウォール → 世界へ

コーンウォールとはイギリスの南西部の半島の先端にあり、当時は銅と錫の鉱山地帯でした。

イギリスは全体的に石炭が安価であったことは前々回に触れました。
しかし、コーンウォール は石炭の産出地域から離れており、輸送コストがかかるため相対的に高価でした。
これらのことから、コーンウォール では以下が経済的に要請されていました。

  1. 鉱山を掘ると発生する湧き水を排水し、より深く掘り進めたい
  2. 石炭が高価なので、機械を入れる場合は燃料効率を高めたい

この経済的な要請がイギリスでもコーンウォールが産業革命の揺籃となった理由です。

1712年、上述のニューコメンが一つ目の要請に答えます。
蒸気機関を初めて実用的な形で発明します。これを「揚水蒸気機関」と呼びます。
しかし、この時点では燃料効率はまだまだ悪かったのです。
ここから1世紀に渡るコーンウォールの鉱山企業による効率向上の戦いが始まるのです。
1800年頃、リチャード・トレシビックが「高圧蒸気機関」を発明します。
1813年、アーサー・ウルフがそれを応用し「複式高圧蒸気機関」と呼ばれる非常に燃料効率の良い蒸気機関を開発します。
この100年で約90%の石炭消費量の減少に成功したと言います。

少し時を戻します。
ウルフが「複式高圧蒸気機関」を発明する30年程前にかの有名な発明がなされます。
1781年、ジェームズ・ワットが「回転蒸気機関」を発明します。
ワットの「回転蒸気機関」は、それまでのニューコメンの「揚水蒸気機関」とは一線を画すものでした。

当時の製造業で一般的に使用されていた機械は、川の流れを利用し水車の”回転”を動力源とするものでした。
ニューコメンの蒸気機関は、水の揚水に特化しており、蒸気の力を単純な上下運動に変換することしかできませんでした。
そのため、製造業の機械の動力源としての応用がしにくかったのです。
そこに技術的な革新をもたらしたのがワットの「回転蒸気機関」なのです。
その名の通り、蒸気の力をギアに伝え、回転させる構造を有しています。
このワットの蒸気機関が発明されることにより、蒸気機関は一般的な製造業にも普及していく一歩目を踏み出しました。

しかし、革新的ではありましたが1781年当時の燃料効率は芳しくありませんでした。
蒸気機関自体としても、ニューコメンのもの、ワットのもの、それぞれが用途に応じて徐々に産業界に広がってはいきましたが、1830年時点では水車や風車よりも少ない設置数に留まっていました。

ここにブレークスルーを起こしたのは、ワットでは無く、コーンウォールの技術者でした。
1845年、ウィリアム・マックノートが「回転蒸気機関」に「複式高圧蒸気機関」の機構を取り付けた「マックノート蒸気機関」を発明します。
これにより、「回転蒸気機関」における燃料効率が大幅に改善されることになりました。
本書はここまでの流れを踏まえ、こう締め括ります。

こうして蒸気機関は急速に水車に取って代わり、全体的にイギリス産業の機械化が始まったのである。

世界史のなかの産業革命―資源・人的資本・グローバル経済 p 196

そうなのです、ここから産業革命が加速していきます。
燃料効率が改善された、応用性の高い「回転蒸気機関」は、多様な製造業の機械や蒸気機関車、蒸気船を生み出していくことになるのです。

そして、当時のイギリスの競争優位性の一つであった「石炭の安価さ」が失われることになります。
燃料効率が高まったため、石炭が高価な大陸諸国においても、蒸気機関を使用する費用対効果が出てきてしまったのです。

イギリスの競争優位は、イギリスだけに特別に恩恵を与えた技術の発明に基づいたものであった。イギリスの技術者らが技術を完璧にすることに成功したために、この国の競争的優位が崩壊したというのは、皮肉なことである。

世界史のなかの産業革命―資源・人的資本・グローバル経済 p 169

ここから、イギリスの独占技術であった「蒸気機関」は世界に波及し、文字通り、世界を変えていくのです。

応用と転用

この産業革命期における「蒸気機関」の歴史とワット派とコーンウォール派の存在を見てきまして思うことは、「応用」と「転用」を意識的に続けることが競争優位性を作るということです。
応用とは、

原理や知識を実際の事柄に当てはめて用いること。

デジタル大辞泉

転用とは、

本来の目的を他にかえて使用すること。

デジタル大辞泉

と辞書には記載されています。
すなわち、科学や未成熟な技術を種として実際のビジネスで芽吹かせる応用と、芽吹いた苗を他の畑でさらに繁殖させる転用が重要だと思います。

現代では、このサイクルは当たり前のように回されていますが、その源流が「産業革命」に見えるのです。
歴史に裏打ちされた、この所作はビジネスの本質だと言えるのではないでしょうか。

次回からは書籍を変え、産業革命を見ていきたいと思います。

ここまでお読み頂きありがとうございました。
良い日々をお過ごしください。

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